荒野の牧場

観た映画についてメモします。

『貞子』観たメモ。

いつか笑える日が来るさ。
この映画を観たこと。

 

何かを期待して観に行ったという訳ではないのだけど、少し悲しくなったのは、

もう貞子というキャラクターを使ってホラーを作ることは出来ないのかなということだった。

キャラクターという表現を使ったが、キャラクターとしてエンターテイメント的に消費されてきた貞子に恐怖の象徴としての存在感を取り戻すことは、本作では難しかった。

 

確かに貞子を使いながらお話は作っている。けど決して貞子を中心としたストーリーにはなっていない。かといって貞子を媒介した物語としては主人公の姉弟の関係性も親に見捨てられた子ども達の物語も描き込みが不足していて、中途半端になっている印象が否めない。
製作側の意気込みが実際どうだったのかは分からないけど、自分には本作のドラマは貞子から連想されるワードやお馴染みの要素を使いながら、むしろ約束事のように使うことで、貞子から逃げているような、そんな印象を抱いてしまった。
変な表現だが「山村貞子」を信じていない気がする。
これならば怖いか怖くないかはともかく、貞子を都市伝説的な存在として扱って敢えてVHSを使った『貞子vs伽椰子』のアプローチの方が自分は支持出来る。
何なら生動画配信を使って呪いが拡散していくというアイディアという点において『貞子 3D』も。
youtubeを模した動画サイトへの投稿動画を題材にするのは良いが、現代の動画メディアだから使っただけという感じがして、そこにもあまり必要性を感じられず。呪いが拡散していく描写は今までの作品でやってしまったから使えない、というのはあったのかもしれないが。でも再生回数が伸びないから過激なことをやろうとして事件のあった団地に行くというアイディア自体は良いかも、と時間を置いて思い始めてきている。

 

物語部分が駄目に思えただけでなく、演出的に気持ちが盛り上がる瞬間が無かったのも辛かった。心のフックに引っ掛かる場面が少しでもあればそこを全力で愛したいのだが、それが無い。それはホラー映画としてだけでなく、失踪した弟の行方と貞子の謎を追いかけるサスペンス映画としても。
何かが起こるかもしれない瞬間、何かが映り込んでいるかもしれない期待感(不穏な空気)、それがほぼ無かった。百歩譲って弟が事故現場に潜入した時の動画はまだ良い。あまりに暈し過ぎている気もするけど。

団地、病院、投稿動画と良いものが作れる材料がこんなに揃っているのにその集合体にあまり満足感が得られなかった。

役者陣は池田イライザが全体的に良かったのと、終盤に登場する警察官役のあの人が嬉しかったです。

 

何でこんな鬱憤を吐き出しちゃったのか自分でも不思議だなと思って考えてみたら、やっぱり『リング』って怖かったと思ってるし、山村貞子を描いた『バースデイ』も恐怖性と悲劇性も良かったからだと思う。そして本作はその『リング』を手掛け、更にその前の『女優霊』を撮った人だったから。最後に観た中田監督の作品が『モンスターズ』でそれもあんまり……ではあったんだけど、それでも……。

 

なんだ。やっぱり期待していたのか。
だからこんなに書いちゃうのか、といま思った。

ということでお終い。

 

 

リング

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『劇場版シティーハンター <新宿プライベート ・アイズ>』を観て新宿が眩しく見えたメモ。

シティーハンター』というと自分にとっての思い出はテレビの再放送だ。

日本テレビで夕方に放送していた覚えがあり、それを見ていた。

金曜ロードショーでTVSPが放送していたから、それの宣伝を兼ねた再放送だったのかもしれない。

銃器描写のリアリティの良し悪しは当然分からなかったが、リボルバーの格好良さに痺れたのはこの一作。

人によっては『ルパン三世』だったりするのだろうか。

アクションといったら自分にとっては『シティーハンター』か『あぶない刑事』のどちらかで、

だからガンアクションが好きになったのかもしれない。

 

そんな『シティーハンター』が帰ってきた。

当時の声優陣のまま、当時のテーマ曲を使い、平成が終わる直前に。

Get Wild』の流れ出す前奏に胸が躍った記憶を持つ人なら、行かなきゃいけない。

無根拠な確信と共に新宿にある映画館に足を運びました。

TV版やTVSPは見たことあるのですが、劇場版は初めてですね。観た記憶が無い。

 

これだけ長い眠りから目覚めたのだからさぞや大層な復活をするものかと思ったが、

映画の始まりは仰々しく「復活」を強調することは無かった。

もちろん派手なカーチェイスがあり、爆発、銃弾も炸裂する。

しかしそれは『シティーハンター』という作品においては日常のようなものだ。

その意味ではまるで先週まで放送していたかのような雰囲気すらある。

ただ違うのは街並みが現在の新宿になり、通行人がスマホで撮影をすること。

なのにこの冒頭の一連の流れで『シティーハンター』が始まった感慨が胸に拡がる。

聞き覚えのあるテーマ曲と共に香が登場し、最後にリョウが決めれば、

映画館内の時間はあっという間に「あの頃」に戻ってしまうのである。

そうなってしまえば、あとはあらゆるものを凌駕する。

正直いって話の進め方、特に前半は展開の隙間隙間をギャグで

埋めているような感じがして、あまりノレない部分があった。

しかしそれも今回の場合、あのキャラクター達のやり取りを観ているだけで

どうしようもなく赦せてしまう自分がいた。

クライマックスにはキレを取り戻したかのようにコメディチックなやり取りから

瞬時にカッコいい姿を披露していて、最終的には満足させられる仕上がりだ。

 

物語展開の核とは裏腹に、映画自体は音がかなり重要な位置を占めている。

TV版のOPとEDをふんだんに使って、こちらの集中力が切れかかりそうなタイミングで

「この曲はまさか……!」と身を乗り出させてしまう。

今回改めて聴いて思ったが、『シティーハンター』に使われた楽曲の数々は

とにかく前奏が良い。それが掛かれば一瞬でスイッチが切り替わる。

ただ冷静に考えると「このタイミングで掛けるか?」というものと、

「ここで使うか!」と舌を巻く瞬間の両方あったので、ある意味複雑。

 

変わっていった新宿で、リョウを始めとした個性豊かな登場人物達は

歳を重ねることない(設定的にはTVアニメ版終了後らしい)。
かといってその街に根付く守り神や亡霊のような批評的な描き方もされない。

ただ新宿という街で生き続けていて、それはこれからも変わらない。

彼らは帰ってきた訳では無く、いつも新宿にいたのだ。
そのことを思い出させたという意味で、この映画は成功といっていいのかもしれない。

次の道に繋がることを祈る。


【公式】シティーハンター 第1話 「粋なスイーパー XYZは危険なカクテル」

『回路』を観て少しだけ胸に沁みたというメモ。

神保町シアターで開催中の特集上映「こわいはおもしろい――ホラー!サスペンス!ミステリー!恐怖と幻想のトラウマ劇場」。

何といっても(個人的な)注目は黒沢清監督の映画『回路』の劇場上映だ。

DVDでレンタルして自宅で観ていたけど、映画館で鑑賞するのは初めて。

初鑑賞当時は終末世界に至った時に見える光景や飛び降り自殺のVFXが印象的だったけど、今回劇場で観たら別のところに目がいった。

そういえばDVDの映像特典で黒沢監督が本作の飛び降り自殺のシーンの作り方を丁寧に解説していたんだけど、その丁寧さに笑ってしまった覚えがある。

そんなに力を入れていたのか……という驚愕から来る笑い。

この監督のVFXの使い方は好きで、『リアル 完全なる首長竜の日』も特殊な映像効果は好きだった。

 

閑話休題

ともかく自宅から映画館へ、鑑賞環境が変わると気付くことも変わる。
今回初めて気付かされたのは、無音の場内で聞こえてくるダイヤルアップ接続の音は不気味ということだ。

冒頭、明かりの消えた場内に微かに聞こえてきた接続音に初めてゾッとした。
今では当たり前のように使われているインターネットも製作年の2001年前後では
まだまだ未知の世界が広がっているイメージが強かったように思う。
もしかしたら現世とは違う場所に繋がってしまう……なんて発想も出来るし、
それを本当に黒沢清監督は映像化してしまった。

接続中に流れる音は、この世とあの世を繋ぐ儀式の一つのようにも感じる。

同時にそれはこれから始まる映画に私たちが繋がる瞬間も表していたのかもしれない。

 

「回路」というタイトルが出る時、「回」の字の「□」を赤くして強調する。
その強調は映画全体を表していて、本作は「孤独」を映像的に演出する。
他者といてもいなくても部屋・世界に一人ぼっちという空間を見せる徹底した撮り方。
一人暮らしの部屋に二人以上いる時、こんなに物理的距離の遠さを錯覚させるのかと思った。

一つながりのリビングとキッチンがあれば端と端にそれぞれ人を配置し、

部屋が複数ある広い間取りならばその部屋を壁のようにして二人の間に仕切りを作る。

人間関係の分断をとことん見せることに一切の疑いが無く、確信を持っている。

これが出来る監督の強さが凄いし、恐ろしい。

 

そんな孤独を最後まで常に強調されると、主人公の一人である川島の向こう見ずな言葉1つ1つが何だか沁みる。

以前観た時はそうでもなかったのに、彼の若さにグッと来てしまった。

演じるのは加藤晴彦さん。この役者さん、なぜか分からないがホラーと縁がある。

他の黒沢監督作品にも出演しているけど、『世にも奇妙な物語』で林原めぐみさん(声のみ出演)と共演した『声を聞かせて』なんて絶品だった。またホラーに出て欲しい。

若者という言葉に対するイメージにピタリとハマるような、そんな雰囲気を本作では漂わせていた。

だから余計なことを考えず、話す言葉が自分の胸に来たのかもしれない。


人は最終的には孤独になっていく。

なっていくが、孤独になる「前」は消えないのではないか。
劇中で度々登場する黒い染みは絶望の形だとは思うんだけど、

一人になっていく人間にとって先に進む動力にもなり得るように感じてしまった。

自分の精神状態のせいか?

よく分からないが、麻生久美子さんの最期の語りなんかにも妙に感動。

ともかく映画館で観て良かった作品だった。本作は海外でBlu-ray化している。

ちょっと購入検討中です。

 

相変わらず終末風景は素晴らしかった。黒沢監督のSF映画、観たい。

 

回路 [DVD]

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『ロッキー』を観て夜の街が印象的だったというメモ。

最近『ロッキー』を観直した時、夜の街が印象的な映画だったんだなと感じた。
特にロッキーとエイドリアンのデートシーン。
夜の街といっても派手な店が並んでいる訳じゃなくて、寂れた通りを歩く二人を捉えている。
何も無いからこそロッキーはエイドリアンの気を惹く為にとにかく喋り続ける。
その姿が微笑ましくていつまでも観ていたくなる。

 

で考えてみて、自分って以下の要素が好きだなと。
・時間帯が深夜の街
・通りに寄れる店が無いor営業時間を過ぎて閉店している
・街中を歩く二人

何も無くて静かだから、状況に取り残された二人は黙るか喋るしかない。
それを機にコミュニケーションが発生し、二人だけの時間が流れ始める。
この瞬間と間延びしているような雰囲気が好きなんだと思う。

 

そこでいまパッと浮かんだ映画を二つ。
『マイキー&ニッキー/裏切りのメロディ』
その街のこども

 

『マイキー&ニッキー/裏切りのメロディ』
映画監督としても有名なジョン・カサヴェテス、『刑事コロンボ』のピーター・フォークによるほぼ二人芝居といった映画。二人の距離間と会話の応酬、無言の時間がサスペンスになるのが印象的。お店に入って待つ場面もあるけど、夜の街中にいる時が印象的だから頭に浮かびました。

マイキー&ニッキー [DVD]

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その街のこども
元々NHKのドラマとして放送された作品が映画として再編集して劇場公開した一本。
こちらは先に書いた「黙るか喋るしかない状況」が起きて、

二人が内に抱えていた記憶を紐解いていく。その過程が何だか胸に染み渡ってくる。
脚本は渡辺あやさん。この方の脚本は台詞一つ一つが刺さってくるから好きだし、
演出の井上剛さんもNHKのドラマ演出陣の中でも特に好きな人。
まだ未見の方は是非観て欲しいなぁと思える一作です。

その街のこども 劇場版 [DVD]

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他に細かいところでいうと『ブルーバレンタイン』の過去パートで
街の片隅でウクレレを弾く男とステップを踏む彼女、という描写が良かった。
撮影がカッチリしてるけど『タイヨウのうた』のYUI歌唱場面も。
夜とストリートミュージシャンの関係も切っても切れない関係なのかもしれません。
とか書いていたらリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア』シリーズもあったなーとか。
実は考えれば考えるほど意外と浮かぶ?