荒野の牧場

観た映画についてメモします。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を観て、好きだった。

長らく続いたシリーズの完結編について語るとなると、

そのシリーズと自分との関わりをどうしても書く必要があるのかなと考えてしまう。
そうはいっても私と『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズとの繋がりは分かち難いほどの繋がりは正直無く、かといって人生の中で簡単に忘れられる存在かといえば、そういう作品でもない。
エヴァの名を冠したゲームはプレイしているし、ゲストでロボットが参戦するゲーム(変にぼかしたが要はスパロボ)でもお気に入りで使った経験もある。
TVシリーズがどこかで再放送していたら思わず手を止めて見てしまう。
じゃあ関連グッズが出たら必ず買うかというとそうでもなく。
まぁ、そこそこの付き合いといったところか。


そんな私にとって新劇場版シリーズが各作品、どんな印象だったのかを簡単に書くと、こうなる。


序→リブートって感じなんだなー

破→普通にロボットアニメしてるー

Q→(閉口。戸惑いといつもの感じが戻ってきた雰囲気への喜び)


意外と「破」までは冷静な目線と作品を楽しむ気持ちが両立していた気がする。
一方で「Q」は前作で気持ちを昂らせた人々をある意味どん底へと突き落とす所業に驚きながら、次第に追い詰められ、

自分にとっては救いになる信じた愚かな行為をしでかしてしまう1人の少年の姿に心惹かれたりもした。心の中を埋め尽くした絶望が、思ってもみなかった方向へ物語を転ばせてしまった危うさ。

当時、この後どう決着をつけるんだろうと正直不安にもなったが、

にも拘わらずこんな結末を用意した「Q」を、私は嫌いになれなかった。

というか4部作のうちの3作目ですし、次でどうにかすれば良いのだ、という楽観的な気持ちも若干あった。

心身ともに削り取られたシンジ、彼を無理やり立たせて歩かせる式波、黒い綾波(以下、黒波としてしまおう)の3人の彷徨が始まり、
その後新劇シリーズが8年の沈黙に至るとはその時予想していなかったのだけれども。


そして迎えた『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は、多分、この新劇シリーズの中で一番好きかもしれない。
エヴァの戦闘シーンやVFX、キャラクターのドラマ関係で一番燃えるのは「破」だし、
不安定さで一番ドキドキさせられるのは「Q」

一番バランス良く纏まっているのは「序」だろう。
何か特定の要素で一番を挙げるとすると前作までのどれかを迷いなく選んでしまうと思う。

でも一番好きなのは本作である。


なんかもうこれが結論、終わりでも良いのだが、それではあまりにも短すぎるので好きな部分を挙げる方向で進んでいく。
結論は変わらずに「シリーズで、一番好き!」なので、あとはその場所へ至るまでの遠回り、迂回した道だ。


まず好きなのは前半1時間である。
第三村での黒波が送る日々と並行して、

シンジの心が回復するまでを描くシークエンスだ。
穏やかに、しかし懸命に生きる人々と共に農業を手伝いながら、人から様々な言葉(おまじない)を学んでいく黒波。
一方で何もせず、喋らず、式波に罵られ、それでも無反応のシンジ。
黒波が第三村で教わった言葉と考えはシンジの頑なな壁を通り抜け、彼の崩れた心を再建していく。


多分この約1時間が一番泣けたかもしれない。
序盤のシンジの姿は完全に心が折れた人間の生活風景だ。
とにかく何もしたくないし、何もしなければ誰かに何も作用することは無い。

だから何もしない方がいい。
こうなると精神の蟻地獄に陥って、本当に身体が動かなくなってしまう。
そのようになってしまったシンジの姿がとても辛かった。
そんな彼が回復するきっかけになるのは黒波になる訳だが、むしろ黒波をこのように変化させた第三村に生きる人々が、シンジの心を変化させたといってもいい気がする。

人と人との繋がりによって様々な経験をした黒波が、今度は第三村とシンジとの繋がりを担う。

繋がりが繋がりを生み、その連帯がシンジの心を回復させていく。


叱咤激励も一つの方法としてあるのかもしれないが、ただ何も言わず寄り添い、帰ってきた時は迎え入れる。

そういう手段だってあるんだというのを提示している気がして、妙に沁みてしまった。

考えてみれば「Q」で一人の少年の心が壊れる瞬間を徹底的に描き、そしてその再生を完結編の約1時間を使って描写した。
ここまでやるシリーズは他にあるのだろうか。知らないので何とも言えないが。

誰か特定の、主人公にとって身近な1人の存在が主人公を導くというストーリー展開は色々にあるけども。


農業に回帰した第三村の描写、最初は高畑勲監督や宮崎駿監督が描いた理想的な農村社会とシンジの回復を促してくれる理想郷が重ねられたように感じていた。何とも斜に構えた目線だ。

しかしその後に株式会社カラーがyoutubeで公開している「よい子のれきしアニメ おおきなカブ(株)」を見直して、あぁこれかと。


よい子のれきしアニメ おおきなカブ(株)

 

作品の内容と監督個人を重ねて考えすぎるのもどうなのかという話にはなりそうだが、
第三村での描写はこの短編アニメの内容が一部下敷きになっていると思われる。


第三村では14年経って年齢を重ねた、かつてのシンジのクラスメイトが登場する。
ここで私が次に好きな要素である相田ケンスケも出てくる。
好きな理由は彼の立ち位置だ。

というのも本シリーズでは碇シンジと彼の父親である碇ゲンドウの父子の関係性、
そしてゲンドウの隠された内面がストーリーの核になってくる。

最後まで観て思ったのは、今回成長して大人になった相田は、ゲンドウの対極に位置するキャラクターとして設定されたのではないかということだ。
いうなれば目覚めたシンジにとって精神的な父親とでもいおうか。
もちろんかつては友達だった訳だが、時を経て、友達みたいな父子になっちゃった、というか。


相田はもう一人の友人である鈴原に「サバイバルオタク」などと評されるが、基本的には色んな方面に詳しいキャラクターだ。
そして一方のゲンドウもまた若いころから知識を蓄えていた過去があったのを映画の終盤で私たちは知る。
ニアサードインパクト、略してニアサーが起きた時、相田の知識によって随分救われたと成長した鈴原がこぼす。
相田は持てる知識を外に出すことで関係性を保ち、新たな繋がりを構築していったのではないか。
他方ゲンドウはその知識によって一人、内側に籠っていった。
他にも「序」において綾波がゲンドウを慕う姿と、本作でのアスカがアスカなりの距離感で相田から離れない様子が重なる。
相田の存在が強く前に出ているとこのキャラクターの対極にいる存在は誰だろうかと考えてしまい、結果浮かんだのがゲンドウだった。そうして色々と推測が浮かんだだけなので、考えすぎといわれたら閉口せざるを得ないのだが。


だが子が父親にしてあげられるのは「肩を叩くか、殺すか」であるにしても、対して父親が自分の子にしてあげられるのは、旅立ちを見送ることなのではないか。
そう思うとやっぱり今回の相田はシンジにとって(そしてアスカにとっても)
精神的な親、頼れる人、師匠とか、そんなポジションだった気がする。


3つ目に好きなのが終らせるためにしたこと。
完結編といっても「終った……のか?」と感じる完結編は色々ある。
エヴァシリーズが取った完結、それは「退場」だった。
ゲンドウが何も語らず、冬月が思わせぶりな笑みを見せ、加持さんがよく分からないが凄そうな用語を並べて話す。
これでエヴァシリーズはまだまだ続けられなくもない。あとは使徒をじゃんじゃん出せばいい(元も子もない表現だ)。
そんなシリーズを終わらせるにはどうしたらよいか。

キャラクターを退場させれば良い。


加持さんがどうやってニアサーを止めたのか明らかになっていないが、多分そこはずっと語られない気がしている。
まず何よりもこの人を退場させることが優先されたからだ。
退場させることで一番関係の深かった人物のドラマに影響をもたらす。今回でいうならミサトにあたる。
加持の不在と彼の忘れ形見にこれまでのシンジとの関係が作用し、ミサトの本作での迷いに深みが生じていたと思う。


特撮オマージュに溢れた撮影現場のバラシ(解体の意)は、心の内側をバラすのと重なる。

語らなかったゲンドウが語り、それに呼応するように冬月も消えた。
シンジを好きになる役割からアスカ、レイも解放されて退場し、シンジの為の生きるカヲルもその役割を離れていく。
そしてエヴァンゲリオンエヴァシリーズ、更にはシンジ自身も。


登場キャラクターがみんな幸せに生きて終わりです、というのはファン的にいったら見たいが、それはまたいつか始められる可能性を留保している側面もある。

これからもエヴァシリーズは作られ続けそうな気はするけども("さようなら"はまた会う為のおまじないらしいです)、
旧劇から年月を経て精神的な変化を遂げた今だからこそ作れる終着点は、あっても良い。
機動戦士ガンダム」シリーズにおける「∀ガンダム」のような存在。
それが新劇シリーズの、シン・エヴァなのかもしれない。


ラストのアニメから現実になって空撮になる映像は、現実に帰れ!! 
と強迫観念的に言われている感じはしなかった。
むしろエヴァの中で魅力的に見えた電線なりビル群はこの現実にだって存在するし、見せ方次第で同じぐらい魅力的に見える。
エヴァが無くてもエヴァで芽生えた感情は現実でも起こせるのではないか……と、ポジティブに捉えられた。


外に出てスマホで何気なく電柱、もしくは変わった形状の建物を撮る時に、少しだけアングルを下向きにしてみる。
そうすると急に世界はアニメになるし、あなたにとってのエヴァになっちゃうかもしれない。

そう思うと現実だって悪くない。


他にも色々と好きな部分はあるし、一方でちょっと落ちるなと感じる部分もあるが、今はお疲れ様でした、ありがとうございました、寝ようという気持ちです。
庵野監督の新作、シンウルトラマンも一応入るのか?

次回作も待ち続けます。さようなら。

 

One Last Kiss

One Last Kiss

  • 発売日: 2021/03/09
  • メディア: MP3 ダウンロード