荒野の牧場

観た映画についてメモします。

年初めに『パラサイト 半地下の家族』を観る。

日本国内で公開して約1年越しにようやく鑑賞。
みんな絶賛してるし、まぁしばらく続くだろうと高をくくってたらこんな事態に…。
そんな時にNetflixで配信が開始されたのでちょうど良き。と思ったら金曜ロードSHOWで放送するという。まぁそれでも良いかと新年一発目の映画。
通常版だけでなくモノクロ版も同時配信したので、続けて鑑賞。新年二発。

ひたすらにポン・ジュノ監督の演出が巧く思えて唸っていた。縮図が見せる重さをこんな軽快に、時に毒のある笑いも含んで描くことに。

会話の端々から微妙なすれ違い、ある一瞬の出来事で通じ合ってしまう過程が描かれていて、人物のやり取りを見ているだけで興味深かった。
においの話で少しずつ鬱憤が溜まっているギテク演じるソン・ガンホの繊細さが絶妙。
ドンイクって結構怖い人ですよね…と思わせるイ・ソンギュンも良い。

雨によって結果的に一同が介する状況になり、貧富の差の縮図が一層浮き彫りになる展開は、見つかってバレてはいけないサスペンスだけでなく、普段隠された相手の本音が明らかになることで揺らぐ人間の心理と、様々な要素を含んだ転がりをしていくので面白い。そのような状況はまるで地下へ引きずり込むように、家族をどんどん光の少ない場所へ追いやっていく。豪邸に住む側がどんな場所でも(たとえソファの上でも)常に一番に光が当たるところにいるのとは対照的に。

通常版は格差社会の表現として特に多様な色彩が印象的で、モノクロ版は色が絞られることで陽光が入り込む範囲、暗闇が目に焼き付く。特に中盤以降、頻繁に降りることになる地下へ降りる入口の暗さは視界の隅で存在感を残す。この暗闇に人は何を見るのか。劇中の人々の立場によって、闇がもたらすものが異なっているように思えた。上の人達にとってはあり得ないと思える出来事が這い上がってくる予兆・恐怖、地下に生きる人にとっては、助け・生きていることを伝える叫びではないかと。

階段の昇降が2つの世界を繋ぐように描かれていて、その描写は勿論この映画の核。だがどちらかといえば色の使い方、陰影のコントロールが、分断された1つの世界を表現する演出として自分の印象に残った。これはモノクロ版も観たからだろうか。それとも光を使ったコミュニケーションであるモールス信号がキーになるからだろうか。声が届かない場合の最良の手段でありつつ、一部の限られた人にしか届かない方法でもある哀しさを感じる。
時に真剣に時に悪趣味な笑いを交えながら描かれた縮図の映画として、新年から良いものを観た。

ただ細かいところで申し訳ないが、監視カメラちゃんと切れてますよー! の配慮のカットは無くても良かったんじゃないかなーと思ったりしてしまう。ダヘがギウの正体に気付く描写が無かったから(無くても状況で伝わるのでこの省略は正しい)、そんな風に思ったのかも。

ところで終盤の包丁を持ち出すところが『CURE』(黒沢清監督作品)っぽいなーなどと思ったのは勘違いでしょうか。

パラサイト 半地下の家族 (字幕版) (4K UHD)

パラサイト 半地下の家族 (字幕版) (4K UHD)

  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: Prime Video